夢は牛のお医者さん

夢は牛のお医者さんという映画と本(絵本とジュニア文庫の2つ)がありまして。

2014年公開なのでだいぶ前のものなのですが、これは私の大学の同級生のお話なのです。

高橋知美さん(現在は丸山姓)が主人公で、彼女に小学校3年生から26年間も密着したドキュメンタリー。

もともとはズームイン朝のワンコーナーだったのが徳光さんが大泣きして話題になり、

定期的に続くこととなった人気コーナーで、懐かし映像でも繰り返し使われていました。

映画になって、そして本にもなりました。残念ながらDVDなどになっていないためなかなか見ることができないのですが。

過疎の町(新潟県松代町)の小学校に新入生がいないからと牛を3頭新入生として迎えて子供たちがみんなで育て、出荷する

というなかなかハードな命の授業から、病気を治したいと獣医を目指すようになり

高校から一人暮らしをして岩手大学に入学し、卒業後はNOSAIに就職して2児の母となりつつ働いています。

もちろん映画は公開と同時に同級生(製薬会社勤務の獣医師。知美さんとはゼミも一緒)と見に行きました。

そういえば受験の時とか入学した時カメラがあってなんだろう?と思ったときの答え合わせができましたよ。

私は出ていないけど(実は友達としてテレビに出ないか、と誘われたことがあったのですがスケジュールが合わなくてお断りしたんですよね・・・。)

病理学教室のくまこも出てきて懐かしい限りでした。

これはたぶん17歳くらいのくまこ。卒業後に会いに行きました。

映画の中で「解剖のために飼われている犬」と紹介されていましたが、それは嘘です。

少なくとも18歳まで生きていたし、解剖のために飼われていたわけではありません。

死んだら解剖はされたと思いますけど。

大学の懐かしい映像もたっぷりでてきて、1980年代の松代町は別の時代では・・・?というくらいのんびりとしていて良い映画でした。

夢に向かって一生懸命努力し、今も仕事をし続けている女性の記録として素敵なものになっていると思います。

産業動物獣医の仕事の現実、というのもそれなりに描かれていて

牛の獣医の知美ちゃん、かっこよかったです。

典型的なお涙ちょうだいな「命を助ける獣医の仕事はすばらしい!」みたいな非現実的な話だったら

美化しすぎて冷めるだろうなと思っていたのですが、

そんなこともなく、彼女自身はあくまでクールなのがまたよかったですね。

牛の獣医さんというのは、畜主さんのお金を使って商品である牛の商品価値を落とさずに治療をするのがお仕事です。

牛のために病気を治してあげる、のではなく

畜主さんのことを考えて治療をするのか治療をしないで処分をすることを勧めるかを決めることが必要です。

お金がかかるだけで治療をしても意味がなかったり、

商品としての価値が下がってしまうとなれば廃用にすることを勧めなければいけません。

いくら牛が可愛くて治してあげたくても、牛がお金を払ってくれるわけではありませんし

治療をしたことによって商品価値が下がってしまうことだってあります。 

映画の中で知美さんも「廃用を告げる時はとてもつらい」というようなことを言っていました。

牛が大好きな彼女にとってはつらいことだと思います。

私たち伴侶動物の獣医の場合は、飼い主さんの希望を第一に聞いて、

検査や治療とリスク、コストなどを説明したうえで検査や治療について相談をすることになります。

大きな病気の場合は

・命を伸ばすことを第一目標にして最新・最大の検査・治療をするのか

・負担をかけない程度で検査・治療を行うのか

・とりあえず苦しいのを緩和してあげることを目標にするのか

などなどいろんな選択肢を提示して選んでもらう、ということになります。

「私たちの仕事は選択肢を与えることで、飼い主さんの選択が一番なんだよ」

と先輩獣医さんから言われたことを思い出します。

難しい病気にあたったとき、いつも本当に迷います。

はっきりと治るための治療法があるものに関しては、

これをこうすれば治る可能性が高いから手術しましょう!

とか

この薬を使うと回復できると思います!と自信を持って言えますが

たとえば体にも負担をかける治療が必要な腫瘍などのとき、

強い薬を使うべきなのか積極的な治療はもうやめて静かにお家で過ごすことを選んだほうがいいのか

私の言い方ひとつで飼い主さんの選択は変わったんじゃないだろうか、

積極的な治療をしなかったことで後悔しないだろうか、

無理をさせてしまって逆に苦しめる結果になっていないだろうか

正解がなくて迷うこともしばしばです。

はっきりと基準が決まっておらず、人それぞれに答えがあるから、迷って当然なんですが。

できるだけ客観的なデータをそろえて可能性を提示したうえで、

聞かれたら自分の犬、または猫ならこうしますと答えるようにしていますが

それすら正解なのかわからず、いまだに迷う日々ですが

飼い主さんにも一緒に迷ってもらうことで、ジレンマは減ったように思います。

以前ペットロスのボランティア団体 ペットラヴァーズミーティングの獣医師向けのセミナーに参加した際 

「見込みのない治療を説明なしに続けずに、無理に苦しめるくらいなら安楽死を提示してほしい」

「できるならお家で看取りたい」

という飼い主さんの声を聞きました。

獣医師とのコミュニケーション不足で傷つく飼い主さんの多いこと、

自分から治療について選択肢が欲しいかったということ

それを知らせるための会だったのでは?と思うほどでした。

あのセミナーに参加したことは、非常に勉強になりました。

これからも、飼い主さんが後悔しないような選択肢をあげられる獣医師でいたいと思います。

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