原因不明とされているアロペシアⅩ(ポメハゲ、脱毛症X、毛周期停止症)ですが、
症例数が豊富なひまわり動物病院ではある程度効果的な治療法が確立されつつあります。
①ホルモン療法
いわゆる発毛のスイッチを押してくれる薬たち。
甲状腺ホルモン・・・皮膚に色素沈着があったり、皮膚の温度の低下、血流の低下がみられるときは
甲状腺ホルモンを治療に用いることがあります。
中高齢のポメラニアンやプードルで薄毛の子は甲状腺ホルモン(チラーヂン)が
投与されているという例が多いですが、単剤では発毛は難しい傾向にあります。
ウロエース・・・前立腺肥大に使われるホルモン剤。高容量を投与する方法が知られています。
この場合、投与後一度は発毛するもののその後脱毛し、
同じ治療をしても生えないというパターンが多いようです。
メラトニン・・・睡眠をつかさどるホルモンの一種ですが、犬の場合発毛を誘引することがあります。
欧米では安眠のサプリメントとして一般市販されていますが
日本では多少入手が困難です。
軽症の場合メラトニンのみで発毛することもあります。
アドレスタン・・・クッシング症候群の治療に使われる薬でまれにアロペシアXにも処方される。
他院で処方され一時的に発毛したことがある症例もありましたが、
発毛効果に比較して副作用が強いと感じられるため当院では使用していません。
これらは獣医師の処方の元飲ませて定期的に血液検査などで体調をチェックしてもらいながら処方されるべき薬たちです。
メラトニンはサプリメント扱いですが、肝酵素が上がってしまう例もありますので、飼い主さんが自己判断で飲ませるのはおススメしません。
また、ホルモン療法の一環というか去勢手術が治療法として明記されてしまっている本やサイトもあります。
確かに去勢手術の後、発毛が認められたという例もありますが、多くはワンシーズンだけで発毛後3か月ほどで再脱毛してしまい、その後は発毛が見られません(獣医師に勧められ去勢をしたけれどまったく反応しなかったという例も多いです)。
これまでの経験上、去勢手術、避妊手術をした症例のほうが脱毛症のコントロールは明らかにしにくいです。
当院では去勢をしていない男の子は軽症で済みコントロールもしやすいので、去勢をしないといけない病気になるまでは去勢手術を待ってもらうことにしています。
大きな自然の発毛スイッチとしては、季節変化があります。
日照時間と関連しているのではないかと個人的には考えています。
2月ごろから急に毛が生えやすくなり、好調な時期が7月ごろまで続きます。
9月ごろからちょっと不調な子がでてきて1月ごろまでは我慢の時期となる、というのがアロペシアカレンダーです。
2月から7月の好調な時期は、何をしても治療にとても反応しやすいので、
半年○○というご飯を続けたら毛が生えてきました!というような口コミを見ると
それはどちらかというと季節の恩恵では?と思ってしまうのです。
➁サプリメントによる治療
当院でホルモン療法の補助として使う薬たちです
オリジナル皮膚セット・・・当院独自のビタミンや亜鉛、コラーゲン、乳酸菌など皮膚のための治療薬。
オンライン診療でも処方いたします。
R&U・・・麹から抽出した生理化活性物質とのこと。
アロペシアXの症例で発毛したという論文もあり、一般の動物病院で処方されやすいサプリメント。
当院に転院してくる犬が飲んでいる率No1。単品で発毛する印象はあまりないが、他の治療と組み合わせて使う
ことで効果が出る可能性はあるので補助的に使っています。
ω3製剤・・・アンチノール、アルジェオメガなど。皮膚の状態や毛ヅヤなどをよくする効果がある。
単品での発毛効果はあまり感じられないが、補助的に使っています。
➂スキンケア
アロペシアXの症例たちは皮膚が乾燥しやすく、膿皮症にもかかりやすくなっています。
皮膚の代謝が止まってしまっていてフケがたまっていたり、皮膚トラブルを多く抱えています。
皮膚にあったシャンプーや保湿剤を使うことで、皮膚の状態を改善し、毛の生えやすい畑を育てるイメージです。
どのようなシャンプーや保湿剤があっているかは実際に皮膚の状態を見せていただくのが一番いいのですが、オンライン診療での対応も可能です。
④刺激による発毛を狙った灸治療
アロペシアXには傷などから発毛するというちょっと変わった特徴があり、同居の犬や猫にかまれたりひっかかれたりした跡から筋のように発毛したりすることがあります。
当院ではお灸による熱刺激で発毛が認められることからお灸による刺激で発毛を促しており、病院での施術のほかにおうちでのお灸もおすすめしています。
お灸をした場所からだけ生えてしまうこともありますが、お灸きっかけにすごい勢いで生えだした症例(症例報告はこちら)もありますので
犬への負担も少なくできる処置としてはお試しする価値はあるかと思います。
マイクロニードルという小さな剣山ローラーのようなもので体中に小さな穴をあけるという方法で治療をし、1年たっても発毛していたという症例報告があるのですが(アメリカの症例。4歳の避妊雌同腹の姉妹で2例とも発毛したそうです)
全身麻酔下で血が出る程度の圧力で針を押し付け4~5回往復させるとのことで、術後は腫れるとも言いますしなんとも痛そうな治療です。
当院への転院例でマイクロニードルを試したけれども全然反応がなかった、という症例が何例かある(症例報告はこちら)ことと、無麻酔のお灸で十分反応しているので現在治療の選択肢にはいれていませんが、マイクロニードルでもさもさに生えたという例もあるのかもしれません。
まとめ
アロペシアXの治療法はいろいろありますが、皮膚を整えて発毛を待つ、というのが第一となります。
脱毛が体調不良によるものもありますので、持病を治療することが優先されることもあります。
症例豊富な獣医師に相談してみるのが一番です。
アロペシアX自体が、長期にわたる治療経験を持つ獣医師が非常に少ない病態で、皮膚科を持つような大学病院でも10年で20症例ほどと聞いたこともあります。
多くの場合皮膚科専門医の先生方は一つの薬を3か月ほど続けて効果がないのであれば次、という方法を使う(その方法でないとどの薬が効いているか判別できないので科学的であるのは十分理解しています)のですが毛を生やす力は年々低下していきますのである意味時間との勝負です。
毛が生えやすい時期も限られていますので、ひまわり動物病院では一番最初に最も効果の高いであろう方法をもってきてできる限り生やしてそれを維持する、という方法をとっています。
その分飲ませる薬の種類は増え、スキンケアなどやることも多くなります。大変ですし全員ができることではないと思いますが、その分の発毛率の高さなのだと自負しております。